慶應義塾大学経済研究所では、長寿・加齢が社会経済に与える影響について経済学および関連研究分野との共同研究を推進するために、「ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター」を2016年6月に発足させた。
日本社会は、急速に人口構造の転換、少子高齢化・人口減少が進んでいる。高齢化の大きな要因は、少子化と長寿化であるが、特に高齢者の余命の伸長は20世紀後半から著しい。
すでに高齢化率は27%近くになり、2020年には30%、2040年から2060年には40%に接近していき、高齢者数も4000万人に接近することが予測されている。これに対応して、年金、医療、介護などの社会保障給付費は2025年には150兆円と現在の1.4倍程度に増加する可能性がある。他方、日本経済には現在1700兆円に達する個人金融資産があるが、その多くがこうした高齢者によって保有されている。このように長寿化により高齢者が増加することは、社会経済に大きな影響を与えることになる。
一般的には、高齢化問題は、高齢者数が増えていくという量的な影響に注目されている。しかし、長寿・加齢の影響はこうした量的な面だけではない。加齢によって心身が変化する高齢者が増加することは、社会に質的な影響も与える可能性がある。すなわち、医療や心理の研究領域では、人は加齢とともに認知能力は変化することが確認されている。さらに疾病・障害などによって認知能力の低下が著しい場合、認知症ということになる。75歳以降は5歳加齢すると、認知症の発症リスクは2倍上昇するとされている。このため、日本では現在、500万人の認知症患者がおり、将来2040年頃には800万人から1000万人に到達するという予測もある。こうした認知能力の変化は、高齢者の経済行動などに大きな影響を与えるであろう。当センターはこうした高齢者の加齢にともなう心身の変化が社会経済に与える影響を、経済学の研究手法によって、理論的、実証的、政策的に研究し、かつ学内、学内の関連研究分野の研究機関、国際的な研究協力を進めることを目的とする。